タイヤ空気圧の雑学うんちく百科

航空機のタイヤに窒素を入れる理由

航空機用タイヤのイメージ■400トンの機体を支え
時速300キロで走る
スーパータイヤ

旅客機のタイヤを間近で見た人はあまりいないと思いますが、直径は1.2m~1.4mくらいでトラックやバスのタイヤと同じくらいで、幅がちょっと広いといった程度の大きさです。ただし、空気圧は1200~1400kPaとトラック・バスの約2倍。1本で支えることができる重量は20〜26トンと約10倍です。
乗客数約500人のジャンボジェット機の場合、燃料を満載した離陸時の総重量は約400トンに及びますが、それを18本のタイヤで支え、約30秒で時速300キロにも達する猛烈な加速で滑走路を走り、離陸するための巨大な浮力を作り出します。
いわば超重量物を運ぶ建設車両と、超高速で走るF1の性能を一度に実現したような、この驚きのパワーの秘密は鋼鉄製のベルトが幾重にも編み込まれた強靭な構造にあります。

■万全の安全対策に欠かせない窒素ガス充填

さて、近年窒素ガスは空気よりも自然漏洩する量が少ないため、空気圧充填の頻度の低減というメリットがあるということで、乗用車やトラック・バスタイヤにも普及しています。
その窒素ガスを早くからタイヤに充填してきたのが、他でもない航空機タイヤです。何百人という乗客の命を預かる航空機のタイヤに、窒素ガスが採用されている理由は、もちろん単に空気圧充填頻度を減らしたかったというわけではなく、多くの安全上のメリットがあるからです。

1. 空気のように酸素を含まないというメリット
<構造素材などが酸化しにくい>

窒素は空気に含まれる酸素とちがって、不活性ガスなので航空機タイヤの強靭な構造を支える様々な素材などを錆びなどで劣化させることがありません。着陸時などに大きな衝撃を受ける航空機タイヤの場合、小さな劣化が徐々に広がり、やがて大きな損傷につながる恐れがある上、こうしたタイヤ内部の劣化を早期に発見することは困難です。窒素充填は劣化の要因となる酸素を元から排除することで、リスクの芽を摘んでくれるというわけです。

<火災や爆発の危険が少ない>

着陸時に、タイヤはブレーキや路面との摩擦でかなり高温になります。不測の事態が起きた時、酸素が含まれない窒素ガスを充填していた方が、爆発や火災が起こる可能性を最小限にすることができます。

2. 水分を含まないというメリット

窒素ガスは生成される過程で、ほとんどの水分が除去されています。
タイヤに充填された空気に水分が含まれていると、高温時に水蒸気となり、体積を膨張させるのでタイヤの空気圧を一気に上げてしまいます。逆に高度10,000mにおける摂氏マイナス 60 度という超低温のなかでは、水は凍結してしまうため、空気圧は急激に低下します。もしもその氷が着陸するまでに溶けなければ、低空気圧のまま着陸しなければならないことになり、大変危険です。温度変化の激しい航空機のタイヤにとって、水分を含んだ空気はリスクの元凶以外の何者でもないのです。

最高の走行性能を引き出すために、空気圧の最適化を目的としたF1では、窒素ガスでなく空気から水分を除去した「ドライエア」が主流になりましたが、高度な安全性確立が最優先の航空機タイヤでは、このように窒素ガスが大きな役割を果たしています。