タイヤ空気圧の雑学うんちく百科

空気を抜いて走らないと
危険な場所!?

■低空気圧は危険という常識が通用しない場所があった

低空気圧でないと、危険という以前にうまく走れない場所──それは砂漠です。最近ドバイの砂漠ツアーが話題になり、日本人観光客も多く訪れているので、ご存知の方もいるかもしれませんが、現地のドライバーは砂漠を走る前に、必ずタイヤから空気を抜いて空気圧を低くします。
世界最大の砂漠「サハラ砂漠」を縦断するパリダカールラリーでも状況に応じた適切な空気圧調整が、勝敗を決する重要な鍵のひとつになっています。参加車両はかつて、CTIS(Central Tyre Inflator System)と呼ばれる、走行中に車内からの操作でタイヤ空気圧の調整が行える装置を搭載。時間・体力のロスなく空気圧調整ができるようにしていましたが、2005年のルール改訂によりこの装置の搭載が禁止されてしまいました。現在では空気圧調整の度に停車し、灼熱の砂漠の中で作業しなければならなくなり、それをいかに的確かつスピーディに行うかということも、パリダカレーサーの技量を計るものさしになっているといえます。

■砂漠を走る時はどのくらい空気を抜くのか

なぜ、砂漠では空気を抜かないと走れないかといえば、舗装路を走ることを前提にした指定空気圧では、タイヤが砂に沈み込んでしまうからです。低空気圧にするとタイヤはつぶれた状態になり、その分接地面積が増えて、砂の上でも十分なグリップを得ることができるようになります。
オフロードタイプの車両の場合、タイヤの指定空気圧は一般的には220kPa程度ですが、砂漠を走行する時は以下のような目安で調整されています。

サンドロード=約140kPa

砂漠の中で車両等の通行ルートとなっており、ある程度踏み固められている路面では指定空気圧の6割強が目安となっています。

サンドデューン(砂丘)=約100~125kPa

砂丘は風によって運ばれた砂が堆積して出来た地形なので、上の方は砂の密度が薄く、表面はパウダー状のフワフワ状態。しかも登坂力も要求されるので、より広い接地面積を確保するために、指定空気圧のおよそ半分まで低くします。

■かつてはラクダしか通わなかった砂漠に轍を刻む

空気圧を低くすると、グリップがよくなるのは、もちろん砂漠での話です。固い舗装路で上記のような空気圧で走ったら、タイヤは間違いなく痛みますし、スピードを出そうものなら加熱してバーストを起こす可能性も高く、非常に危険です。砂漠ツアーを終えたドライバーが、速やかに指定空気圧に戻すことはいうまでもありません。
砂漠という特殊な場所における特殊な空気圧設定によって、自動車はかつてはラクダしか通わなかった過酷な領域を制覇することができました。日々進化を遂げる自動車の足元で、タイヤの空気圧は、さらなる可能性を提供するチャンスを待っているのかもしれません。